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NO.12
草ビードロ(コンゴ共和国・ショワ族)

以前、ブショング族のンチャクというアップリケの布をご紹介しました。ブショング族もショワ族も、同じクバ王国を形成するクバ族という大きな民族のサブグループです。ブショング族がアップリケや 10 種類ほどの刺繍の技法を使って布を作るのに対して、ショワ族はたった 2 種類の刺繍の技法を駆使して、ほとんど無限といえるバリエーションを持つ布、草ビロードを作ってきました。

ショワ族と草ビロード

クバのあらゆる工芸品には幾何学文様が描かれています。住居、敷物、椅子、楽器、箱などはもちろん、女性の身体にまで幾何学文の瘢痕が見られます。ショワ族はこのクバ王国の北西部に居住しています。

クバ王国が成立した 17 世紀、クバの支配者であったシャアム・ア=ムゥブル・ア=ングーンは織りや刺繍などの技術を西に住むペンデ族の人々から学び、クバ王国に広めたと言われています。ペンデ族、さらに西のコンゴ族も草ビロードを使っていたという記録が残っています。

ザイール川の河口に住むコンゴ族は早くからヨーロッパ人との接触があり、コンゴ族の草ビロードは 18 世紀には数多くヨーロッパに渡りました。当時のスケッチから草ビロードは身分の高い人たちの衣装、ブランケット、椅子の装飾として使われていたことがわかっています。ところがヨーロッパの布が入るようになると、手間のかかる草ビロードは衰退していきました。しかしクバ王国にヨーロッパ人がやってきたのは 19 世紀後半のことで、ショワ族は草ビロードを作り続けていました。 20 世紀に入りカソリックの尼の奨励で正方形型の草ビロードが多数作られるようになりました。これらは結婚の持参金、死に装束、椅子や床のカバーとして、また交易品として使われました。

作り方

ブショング族のアップリケと同様、ラフィア椰子の葉から糸を作り、この糸を用いて台地となる平織りの布を男性が織ります。この布にラフィアの糸を使って女性が刺繍していきます。

刺繍の技法には 2 種類あります。撚りのない普通のラフィアの糸で平織りの表に出た目をひとつずつ拾うミシーンと呼ばれる単純な技法と、同じく目をひとつ拾って、細かくほぐした糸を通し、それを 1 、 2 ミリの長さに切るランバットと呼ばれる技法です。

1 、 2 ミリに切りそろえられた糸が一定の面を埋めるとビロード状になるのが「草ビロード」の名の由来となっています。ミシーンによって文様の輪郭を描き、そのあとランバットで面を埋めていきます。ミシーンによる線は布の対角線の方向をとることになり、直線、菱型、十字、山型などの文様が繰り返し描かれます。

モチーフ

布には主に使われるモチーフにちなんだ名前がつけられます。

右に紹介したものの他に、モランボ(指)、ビシャ・コト(ワニの背中)、ニィンガ(煙)、ミシンガ(ひも)などがあります。またヨーロッパ人がもたらしたオートバイのタイヤの跡をモチーフにしたものも見られます。

文様は下書きをせずに自由に描き進められます。布全体を刺繍で覆うため、一枚の布ができあがるには長い日数がかかります。

途中で気分が変わり、モチーフが変化したり、まったく違うパターンになることもあります。また刺繍用の糸もあらかじめ全部染めるわけではないので、色も微妙に変化することがあります。草ビロードの文様はある規則性を持っていながら、そのおおらかさが私たちを魅了します。

参考文献

  • 「クバ王国のアップリケと草ビロード アフリカンデザイン」渡辺公三、福田明男、里文出版、 2000 年
  • 「 African Textiles 」 John Picton & John Mack, British Museum Press, 1989
  • 「 african textiles 」 John Gillow, Thames & Hudson, 2003